東北大学大学院工学研究科 バイオロボティクス専攻分子ロボティクス分野 村田・川又/野村研究室 Molecular Robotics Laboratory

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Research

DNAナノエンジニアリング

DNAをもちいたナノ構造の作製

DNAをもちいたナノ構造の作製DNAを材料として,いろいろな形状の分子を作り出すことが可能である.DNAの化学合成技術はすでに確立されており,任意の配列をもつ人工の1本鎖DNAが容易に作製できる.溶液中に何種類かのDNA一本鎖が存在する場合でも,相補配列をもつ部分同士がハイブリダイゼーション(2重らせん化)するため,うまく配列が設計されていれば,互いに絡み合って一定の形状が定まった構造をとる.DNAの鎖の構成要素は4種しかないため,自由エネルギー計算によりどの部分が2重らせんになるかが比較的正確に予測できる.このことを使うと,望みの構造を作り出すような塩基配列のセットを設計することができる.この原理に基づいて,DNAタイルとよばれる構造体を自己集合させた平面結晶,DNAオリガミとよばれる長鎖DNAの折り畳み手法による2次元や3次元のナノ構造の作製などが急速に進歩しており100ナノメートル以下の構造形状はほぼ自由自在に作製できる域に達している.

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DNA分子による計算システムの構築

DNA分子による計算システムの構築DNAのハイブリダイゼーションをうまく使うことで,ナノ構造の形成だけでなく,情報処理も可能になる.ハイブリダイゼーションは化学平衡プロセスであるので,より長く一致する(エネルギー的により安定な)相補配列があれば,それに置き換わっていく.特定の配列をもつDNA分子の存在/不存在(濃度)により情報(ビット)を表現し,安定状態の遷移をうまく設計すると,ANDやORのような論理演算回路に対応するハイブリダイゼーションの反応系を溶液中に構築することが可能になる.これまでさまざまなDNA分子計算の手法が提案されており,目的に応じて多様な情報処理システムが構築できるようになっている.

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DNAナノエンジニアリングから分子ロボティクスへ

DNAナノエンジニアリングから分子ロボティクスへ分子ロボットとは環境からセンサーにより情報を得,回路によりその情報を加工(判断)し,その結果に応じてアクチュエータを動かして環境に対して働きかける(環境に変化を生じさせる)のがロボットである.システムを環境から区別し,これら3つの要素を一体として関連付けるための構造も必要である.「分子ロボット」はこれらの構成要素がすべて分子レベルで実現され,さらに,これらが有機的なネットワークとして働くシステムである.DNAナノエンジニアリングの進展により,分子ロボットに必要なこれらの構造部品や機能部品をつくることができ,かつそれを組み合わせることも可能になってきている.また,脂質やタンパク質などDNA以外の生体高分子とDNAを組み合わせることも可能である.

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人工細胞工学

人工細胞工学

人工細胞工学人工細胞の研究とは、一般的な細胞、つまり「(1)リボソームなど膜状の物質に包まれており、(2)DNAなどの遺伝情報を持ち、(3)タンパク質など化学物質を作り出すことができ、(4)増殖することができる細胞」を人工的に作り出す研究、という認識で捉えられるだろう.しかし,ヒューマノイド型だけがロボットではないのと同様,実際にはもっと幅広く捉えられている.人工細胞の研究は,上記の「リアル細胞型」のほか,「ありうる生命型」「機能特化型」の3つに大きく分類できよう.生命現象を参考にしつつも,生命現象にのみとらわれないのが人工細胞工学である.

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研究の現状と完成形

リアル細胞型では,細胞(生体)の中で生じる各種生命現象の因子を特定し抽出して,試験管の中で再現する研究がここ70年あまりで進んでおり,その成果をリポソームの中で運用する,というトレンドがある.細胞骨格やモータタンパク質,遺伝情報の転写・翻訳系,様々な膜タンパク質が組み込まれた例が報告されている.複数の生化学反応系をまとめて協調動作させるという研究は始まったばかりだが,世界は広いので,多段階にわたる代謝系を導入して,滞りなく作動させる研究がこの瞬間にも進んでいるはずである.コンピュータシミュレーションに強いところが有利なはずである.課題として,現在のところ短い遺伝子でしか成功していないDNA複製がゲノム(個体の全遺伝子フルセット)サイズにまで到達すれば研究は飛躍的に進歩すると期待される.
ありうる生命型,の目標はやはり「複製する人工細胞」だろう.小分子レベルでは実現されており,課題は,遺伝情報の複製と,膜の複製とをどう同調させるか,にある.他にも世界各国で最少セットの要素からなるプロトタイプ細胞をつくりつつ探索する「ミニマルセル」と呼ばれる研究が進んでいる.少しでも多くの人々に「生命っぽい」と思わせることが課題である.
機能特化型の歴史は古く,人体内部の目的の場所に必要な量だけ薬剤を届ける,ドラッグデリバリーシステムとして研究開発が進んでいる.体内の免疫反応を惹起せずに標的にのみ集中するような機構の先鋭化と,多少の問題は吸収するような冗長性をいかに少ない要素で実現するかが課題である.

研究の将来像

人工細胞の完成形,は,前出のように研究者ごとに設定が違うと思われるが,リアル細胞型では現存の細胞のフルコピー,ありうる生命型では,最少要素数から構成される細胞(ミニマルセル)が相当すると考えられる.機能特化型は,人工物であるがゆえに完成型はないと考えられる(これはロボットの完成型が人間でないのと同じこと).多種多数の分子の集合体を滞りなく働かせ,エネルギ流の中で時空間秩序を自ら生み出し,増殖するような構造を設計して実現することは,ものづくりの手法の革新になる.生物や化学のみならず,機械工学や情報学など人工物の構成と制御を学んだ若い力が参入してくることで分野が豊かになり,さまざまな形の人工細胞が提供される,そんな未来に期待している.

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